マクロレンズは日常では見ることができない世界を映し出すことができます。
どんなに小さな世界でも、それを拡大して見ることができれば大きな世界に変わります。『井の中の蛙大海を知らず されどその深さを知る』です。
マクロレンズを使って、小さいと思っていた実は広大な世界を覗いてみてはいかがでしょうか。という訳で今回はマクロレンズとは何か。その魅力や使い方、選び方についてまとめました。
マクロレンズとは
マクロとは大きいという意味の通り、被写体を普通のレンズよりも大きくとることができます。もう少し厳密な表現をすると、普通のレンズの撮影倍率が0.1から0.3倍なのに対してマクロレンズは1倍以上の倍率で撮影することができます。
焦点距離に対する撮影倍率と最短撮影距離
撮影倍率とは実サイズに対するイメージセンサー上のサイズのことです。例えば撮影倍率が1倍の場合、フルサイズだと横幅35mmの被写体を、画面横幅いっぱいに撮影することができます。
撮影倍率についてはこちらで詳しく解説しています。
この特徴に付随して、マクロレンズは普通のレンズに比べて近寄って撮影することができます。(近寄らないと撮影倍率の特徴を活かせない、とも言えますが)
例えば、ニコンの60mmの単焦点マクロレンズとそれに比較邸焦点距離が近い、焦点距離58mmの単焦点レンズ、焦点距離50mmのレンズの最短撮影距離と最大撮影倍率は以下の通り。
通常レンズの最短撮影距離が0.50m前後に対して同等焦点距離のマクロレンズの最短撮影距離は半分以下の0.185mです。
種類 | 品名 | 焦点距離(mm) | 最大撮影倍率 | 最短撮影距離(m) |
---|---|---|---|---|
マクロ(単焦点) | AF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G ED | 60 | 1 | 0.185 |
単焦点 | AF-S NIKKOR 50mm f/1.8G | 50 | 0.12 | 0.45 |
単焦点 | AF-S NIKKOR 58mm f/1.4G | 58 | 0.15 | 0.58 |
通常、焦点距離が長くなるに従い、最短撮影距離も長くなりますが、マクロレンズは他の二つのレンズに比べて最短撮影距離が極端に短いのが分かります。
この最短撮影距離はレンズの焦点距離によって変わってきます。ニコンでは5種類のマクロレンズがありますが、最短撮影距離は以下の通り。マクロレンズとは通常レンズ以上に最短撮影距離が短いために大きく撮ることができるレンズとも言えます。
焦点距離 | 品名 | 最短撮影距離(m) |
---|---|---|
40 | AF-S DX Micro NIKKOR 40mm f/2.8G | 0.163 |
60 | AF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G ED | 0.185 |
60 | AI AF Micro-Nikkor 60mm f/2.8D | 0.291 |
85 | AF-S DX Micro NIKKOR 85mm f/3.5G ED VR | 0.286 |
105 | AF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-ED | 0.314 |
200 | AI AF Micro-Nikkor 200mm f/4D IF-ED | 0.5 |
厳密なことを言うと、最短撮影距離とは、レンズが被写体にピントを合わせた時の、被写体からカメラのイメージセンサーまでの最短距離のことです。
なので、被写体の距離からレンズ先端までだと、さらに距離は短くなります。この、レンズ先端部から被写体までの距離のことをワーキングディスタンスと呼びます。

マクロレンズを選ぶとき、撮りたい被写体に対して、ワーキングディスタンスがどの程度になるのかを押さえておくとレンズの選択ミスを減らせます。
マクロレンズの選び方
焦点距離が短い方が手ブレしづらいというメリットがありますが、被写体により近寄らないと行けません。花壇の花を撮影する場合など少し遠くなってしまうこともあるかもです。
焦点距離が長いマクロレンズは、手ブレはしやすいデメリットはありますが遠くからでも撮影することができます。逆に被写体がアリなどの小さい昆虫を撮るならかなり近づけるので短い焦点距離のレンズの方が良いでしょう。
また、一般的に焦点距離が長くなるほどレンズは高価になります。焦点距離の長短でのメリットデメリットをまとめると↓こんな感じ。
焦点距離 | メリット | デメリット |
---|---|---|
短いレンズ | ・手ぶれしにくい ・比較的安価 | ・被写体に近づく必要あり |
長いレンズ | ・被写体から離れて撮ることができる ・比較的高価 | ・手ぶれしやすい |
レンズ全般に言えることですが、マクロレンズを使って何を撮りたいのかを明確にすることがレンズ選びの一番のポイントです。
マクロレンズの写り方とその魅力
そもそもマクロレンズとはどんなふうに写るのか。いくつか作例をご紹介します。これらの写真でもってマクロレンズの魅力が伝われば幸いでございます。
使用したレンズはいずれも「AF-S DX Micro NIKKOR 85mm f/3.5G ED VR」です。
まずは花。このときのf値は4.8ですが被写界深度が極薄です。後で触れますが、マクロ撮影の特徴として、マニュアルフォーカスを多様します。
このカタクチイワシの煮干しがこんなエイリアンみたいな質感をしていたことが驚き。小さい世界の奥深さを撮すことができるマクロレンズならではの成せる業です。
カレーライスをマクロで撮ってみると、思った以上にご飯粒はみずみずしくて、思った以上にルウは辛そうだということが分かりました。
この目ん玉お化け鳥はミミズクです。この写真はD750でクロップ撮影です。
登山靴にへばりつくド派手な色のヤモリ。マクロレンズを手にしなければヤモリのド派手さに思いをはせることも無かったでしょう。
マクロレンズの使い方
マクロレンズが他のレンズに比べて特徴的なのは、マニュアルフォーカスでの撮影機会が多いところです。もちろんマクロレンズでもオートフォーカスで撮影できます。
が、普通のレンズに比べて撮影距離が短くなるマクロレンズでは被写体深度も極端に狭くなります。絞り解放の極薄の被写体深度でばっちし撮りたいものにピントを合わせるにはマニュアルフォーカスの方がオススメです。
液晶画面を拡大+マニュアルフォーカスの方がオートフォーカスよりも間違いなく精度が高いです。時間をかけて撮影できるシチュエーションなら、拡大マニュアルフォーカスを心がけましょう。
手ブレ補正機能
結構シビアな撮影が要求されるマクロレンズでの撮影。やはりレンズには手ブレ補正機能が搭載されているに越したことはありません。
ニコンだと次の二つのレンズに3段分の手ぶれ補正が搭載されています。「AF-S DX Micro NIKKOR 85mm f/3.5G ED VR」「AF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-ED」
ちなみに、手ぶれ補正の3段とはシャッター速度の段数のことです。シャッター速度は「1/2」「1/4」「1/8」「1/15」・・・という具合に段数が変化していきます。
シャッター速度が遅くなるほど手振れのリスクは大きくなりますが、手振れ補正機能があると、手振れを抑制してくれます。この抑制してくれる程度を分かりやすく示したものが手振れ補正の段数です。
仮に、ギリギリ手振れしないシャッター速度が1/60だった場合、3段分の手振れ補正機能があると、シャッター速度を1/8まで遅くしてもギリギリ手振れせずに済むという意味です。凄いぞ手振れ補正!

マクロレンズを使いこなすためのコツ
以上を踏まえてのマクロレンズを使いこなすためのコツは、
被写体を間違えないこと
小さい被写体を大きく撮るのが目的のレンズなので、そのような被写体であることが第一です。ポートレートでマクロは必要ありません。毛穴でも撮りたいなら別ですが。
被写体に近づけること
一つ目とも絡みますが、十分な大きさで撮れる距離まで近づけることが重要。近寄れないとただの単焦点レンズです。
液晶拡大+マニュアルフォーカス
マニュアルフォーカスでの撮影に慣れましょう。普通のレンズでも暗くてオートフォーカスの精度が怪しいときにマニュアル撮りは重宝します。ちなみに、マニュアルフォーカスに切り替えたことを忘れてオートフォーカスのつもりで撮り続けて後で泣く事案が発生しています(僕ですが)。注意しましょう。

クロップ撮影(トリミング)
フルサイズならクロップ撮影が可能です。クロップ撮影とは、イメージセンサーのAPS-Cに相当する中央部だけを用いて撮影する方で、画面サイズは小さくなりますが、その分、さらに拡大して撮影することができます。大きく撮ることを目的する場合、有効な手法です。
ニコンのフルサイズ機と24-120mmのズームレンズでクロップ撮影を駆使すると、以下の通り実質、24-180mmまでの焦点距離をカバーすることができます。

ちなみにD750であれば約2400万画素ありクロップ撮影してもA4サイズ程度なら問題無いと思われます。詳しくはこちら。
初心者にオススメのマクロレンズ
ニコンでは85mmのレンズ『AF-S DX Micro NIKKOR 85mm f/3.5G ED VR』をオススメします。DXフォーマットのため価格が抑えられているのと、手振れ補正が搭載されているため手持ち撮影に有利です。このレンズで手振れ補正があるのはFXフォーマットの105mmのみ。
DX用85mmをフルサイズ機で使用すると実質焦点距離は127.5mmとなります。大きく撮ることが大正義のマクロ撮影においてはクロップ(トリミング)は積極的に活用すべきと思います。
むしろフルサイズ機でクロップ撮影にしないと確実にケラレが発生しますのでご注意を。
性能については、ピント速度もストレスにならない早さで、純粋に単焦点レンズとしてもクリアが画像が得られます。ニコンのマクロレンズのラインナップの中ではコスパ良く、機動力高しなので初めのマクロレンズとしては最適だと思います。